アイドルのおわり
アイドルの終わりをみた。
武道館での二日間のライブをもって私の大好きな人たちはステージを降りた。
「活動に一区切りをつける」という曖昧な表現のせいで先のことに確証が持てなくて不安だった。
それでも私の好きなアイドルがステージをおりたことに変わりはない。
次にステージ上の姿を見るのは何年後か何十年後か二度とないのか。
わからないけど、あの日確かに私の好きなアイドルは終わりを迎えた。
私は今までアイドルというものを斜めに構えて見ていて、少しバカにしたような気持ちさえあった。なんで他人のために泣いたり笑ったりできるか全然わからなかった。自分以外のことでそこまで感情を左右されるなんてアホらしいし、一生自分とは縁遠いものだと思っていた。
そんな私に一生懸命頑張っている人の姿は胸を打つということを、アイドルの熱さを教えてくれたのに、終わってしまった。
至上最大規模の伝統ある武道館で、最後なのにライブはどこまでも楽しくて嫌でも笑顔にさせられた。
こんなに輝いてる人たちが終わってしまうなんてあっていいわけがない。
応援が足りなかったと思った。
もっと早く出会えていればと自分を呪った。
ファイナルライブ後どうやって生きていけばいいんだろう、とずっと考えていた。
「明日に連れていく」って言ってくれてたのに、その明日に一緒に来てくれないなら意味がない。
最後の挨拶でメンバーが様々に気持ちを伝えるなかで、センターの男の子は言った。
「これは勝ちです」と。
アイドルに特別詳しいわけじゃないけど、アイドルの終わりはもっと暗くて歓迎されないものだと思っていた。
ファンに永遠を誓うアイドルが終わるのは負けでしかないと思っていた。
彼はそれを「勝ち」だと表現した。
こんなことってあるの?
明日からアイドルじゃなくなる男の子が一瞬でたくさんの人を救っていって、そうやってステージを降りるなんて、この世にあっていいの?
思いっきりぶん殴られたような衝撃だった。
彼がそういうなら私たちは勝ったんだって素直に思えた。
何にかはわからないけど、たぶんそんなのはどうだっていい。
世の中に終わりのないものは存在しないし、アイドルも例外ではない。
でも辛くて悲しい終わりだけじゃない。
晴れやかで惜しまれながらも門出を祝福される、そんな終わりも確かにあった。
だって私たちは勝ったんだから。
もうアイドルじゃなくなってしまった男の子たちへ
あなたたちにありったけの幸せが訪れますように、
辛いことなんて一つもありませんように、
全部の夢がかないますように、
私はあなたたちのおかげで生きていこうと思いました。生きていけると思いました。
ありったけの感謝を送ります。